概要
福島原発事故から5年。強引な帰還政策のもと、避難指示地域以外の地域から避難している「自主避難者」たちは支援の対象外とされ、唯一の支援策である仮設住宅の無償提供も2017年3月末に打ち切りが決まった。放射能から勝手に逃げている人という世間からの冷たい目にさらされ続けている自主避難者たちの抱える生活困難の状況を明らかにし、どのような支援を構築すべきなのかを問う。
ISBN 9784750343334
判型・ページ数 A5・204ページ
出版年月日 2016/03/30
出版社:明石書店 <出版社ページ>
目次
はじめに
第一部 放置される自主避難者問題
第1章 放置できない自主避難者問題[戸田典樹]
1 「子ども被災者支援法」基本方針策定(2013)における「避難の権利」の曖昧化
2 「子ども被災者支援法」基本方針の見直し(2015)による「避難の権利」の形骸化
3 「避難の権利」の曖昧化・形骸化による自主避難者の苦悩
4 被災者すべての権利・生活を保障するために
第2章 大規模調査からみる自主避難者の特徴――「過剰な不安」ではなく「正当な心配」である[辻内琢也]
1 はじめに
2 NHK/WIMAアンケート調査の概要
3 自主避難者にみられる高いストレス度とその要因
4 自主避難者のおかれている心理・社会・経済的状況
5 自由記述の分析から読み取れる自主避難者の特徴
6 安心神話と価値観の対立の根拠
7 放射線に関するアンケート調査結果
8 新たな自主避難者の急増と今後の展望
9 結論
第3章 自主避難者の今 何が困難を引き起こしているか――アンケート調査よりの分析[伊藤泰三・河村能夫]
1 調査の概要
2 集計結果の概要
3 統計解析から見える自主避難者の特徴について
4 他調査から見える避難生活の特徴
第4章 漂流する母子避難者の課題[田中聡子]
1 限定された支援の現状
2 先行研究から見る母子避難の現状と課題
3 避難を続けることによって生まれる新たな問題
4 母子避難者問題の解決に向けて
第5章 子どもの安全、安心な未来のため親としてできること[田中聡子]
1 避難生活を続ける母親
2 父親として子どもを守りたい
3 帰還者からみる子どもの安全、安心
COLUMN
子どもの未来、家族の幸せを願って[渡部朋宏]
知ってほしい、考えてほしい福島の現実[渡辺成子]
第二部 自主避難者問題の構造を考える
第6章 限定される自主避難者の損害賠償[渡部朋宏]
はじめに
1 日本における原子力損害賠償制度の概要
2 自主避難者に対する損害賠償の指針
3 自主避難者に対する損害賠償の状況と課題
第7章 自主避難者への社会的支援[大友信勝]
はじめに
1 原発事故と避難
2 自主避難の構造
3 被害者支援政策の裏切りと迷走
4 チェルノブイリ原発事故の教訓
結びにかえて
おわりに
編者・執筆者紹介
【執筆者一覧】
戸田典樹(とだ のりき)
京都府生まれ。関西学院大学法学部卒業。佛教大学大学院修士課程、龍谷大学社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会福祉学)。京都府教育委員会、大津市、会津大学短期大学部を経て、現在、神戸親和女子大学発達教育学部福祉臨床学科教授。社会福祉士。
主な著書:『福島の避難者たち――まだ終わってない原子力発電所事故』eブックマイン、2013年。『子どもの笑顔が町を照らす――大熊町での教育委員会、学校現場、NPO法人、学生ボランティアの取り組みから』編著、eブックマイン、2014年。『三重苦の原発母子避難者たち』編著、eブックマイン、2014年
辻内琢也(つじうち たくや)
愛知県生まれ。浜松医科大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科・ストレス防御心身医学修了。博士(医学)。千葉大学大学院社会文化科学研究科(文化人類学)単位取得退学。早稲田大学人間科学部助教授、ハーバード大学難民トラウマ研究所(HPRT)リサーチフェローを経て、現在、早稲田大学災害復興医療人類学研究所所長。2016年より早稲田大学人間科学学術院教授。日本心身医学会認定専門医、日本医師会認定産業医。専門は医療人類学。
主な著書:『ガジュマル的支援のすすめ――一人ひとりのこころに寄り添う』編著、早稲田大学出版部、2013年
伊藤泰三(いとう たいぞう)
大阪府生まれ。大阪府立大学大学院社会福祉学研究科博士後期課程単位取得退学。社会福祉士。日本メディカル福祉専門学校社会福祉士科講師を経て現在福山平成大学福祉健康学部福祉学科講師。専門は貧困問題、社会的排除。
河村能夫(かわむら よしお)
兵庫県生まれ。Cornell Univ. PhD(Development Sociology)、京都大学博士課程単位取得退学。現在、龍谷大学名誉教授(REC顧問)、京都府立農業大学校校長。専門領域:国内外の農村開発研究、応用社会統計分析、大学と地域の連携システム構築。
主な共編著:『中国経済改革と自動車産業』昭和堂、2001年。『京都の門前町と地域自立』晃洋書房、2007年。From Community to Consumption: New and Classical Themes in Rural Sociological Research , Emerald:Bingley, UK、2010年。『経済成長のダイナミズムと地域格差』晃洋書房、2013年
田中聡子(たなか さとこ)
京都府生まれ。龍谷大学社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程修了 博士(社会福祉学)、社会福祉士、県立広島大学准教授。
主な著書:「子どもの貧困に抗うための実践」『子どもの貧困/困難/不利を考えるⅠ』埋橋孝文/矢野裕俊編、ミネルヴァ書房、2015年、pp.119-137。「母子家庭の母が描く子育てと子ども姿」『子どもの貧困/困難/不利を考えるⅡ』埋橋孝文/大塩まゆみ/居神浩編、ミネルヴァ書房、2015年、pp.117-126
渡部朋宏(わたなべ ともひろ)
福島県生まれ。法政大学文学部卒業。福島大学大学院地域政策科学研究科修士課程修了(地域政策修士)。現在、会津美里町役場まちづくり政策課公共施設整備室係長。
大友信勝(おおとも のぶかつ)
秋田県生まれ。日本福祉大学卒業、博士(社会福祉学)。日本福祉大学・東洋大学・龍谷大学教授等を経て、現在は聖隷クリストファー大学大学院教授。専門は社会福祉学。
主な著書:『公的扶助の展開』旬報社、2000年。編著『社会福祉原論の課題と展望』高菅出版、2013年。編著『韓国における新たな自立支援戦略』高菅出版、2013年